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大阪高等裁判所 昭和36年(う)889号 判決 1961年12月12日

被告人 山本政次

主文

本件控訴を棄却する。

理由

各弁護人の所論第一点(理由齟齬、或は法令違背)について。

しかしながら刑法第二一一条にいわゆる業務とは各人が社会生活上の地位に基き反覆継続して行う事務にして人の生命身体に対し危害を及ぼす虞のあるものを指称するのであつて主たる事務は勿論その遂行手段である附随的事務をも含むものと解するのを相当とする。本件につきみるのに被告人は昭和三五年六月頃呉服類販売業村上商店に店員として雇われたこと、右村上商店は同年八月頃同業卸小売を営む京繊織物株式会社に併合し次いで同年一〇月一日頃右会社から分離して元通りの営業を続けていたこと、被告人は右合併により京繊織物の店員となり分離により再び村上商店の店員となつたのであるが、右変遷にかかわらず終始外交、商品配達等の業務に従事し遠隔地は別として京都市内及びその近辺の得意先廻り或は商品配達に際し京繊織物に在勤中は屡々同社の第二種原動機付自転車を運転して外交に従事し、或は商品の運搬をしていたこと、村上商店が分離旧に復してからは常に同商店備付の足踏二輪自転車を前同一用途に使用していたこと、そこで判示第一記載の日時に被告人は、村上商店主の命により取引先の山黄商店(同市上京区上立売堀通堀川所在)へ配達する商品を足踏二輪自転車に積みこれを操縦して赴く途中、この自転車が故障したので京繊織物に立寄り同社から判示の第二種原動機付自転車を借り受け、これに商品を積み替えて運転中判示第一記載のとおり事故を惹起したことを原判決挙示の証拠によりいずれも認め得るのである。しかして足踏二輪自転車といえどもその操縦の仕方次第で人の生命身体に対し危害を及ぼす虞のあることは多言を要しないし、前示認定のとおり被告人が得意先廻り或は商品配達のため反覆継続して足踏二輪自転車又は原動機付自転車を操縦することは附随的事務であつて刑法第二一一条にいう業務というに差支えない。所論のとおり仮令判示日時頃村上商店に原動機付自転車の備付けがなく偶々被告人が本件の原動機付自転車を他店から借り受け使用したものであつても被告人がこれを運転することを指して業務であるというのに変りがない。よつて原判決に理由齟齬或は法令違背があるとの所論はいずれも理由がない。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判官 松村寿伝夫 小川武夫 若木忠義)

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